悩み多き歯科医師さん

歯科医師と歯医者

尊敬される歯科医師と恐がられる歯医者さんの2つの顔をもつ。

白衣に身を包んだ清潔で頭も良さそうな歯科医師は尊敬されるべき存在なのですが、 子供から見た歯医者さんはとっても恐い謎のマスクマンです。 小さな子供は歯医者さんの姿を見ただけで無言でその場からひっそりと立ち去るか、 裸足のままで全力疾走で逃げ出します。 頭の中ではそうなるのがわかっているとしても、実際に目の前で自分の姿を確認した 途端に子供がダッシュしていく様をみせられると凹んでしまいます。 子供が恐いもの四天王に数える存在の歯医者さんとは自分のことなんだ、と思うとき 繊細なガラスのハートがポキリと音を立てるのが聞こえてくるようです。 歯科医師を続けている間はいつでも子供の怯える眼差しを目撃し続けることになるので、 子供好きな人には耐えられないほどの苦しみとなり毎晩悪夢にうなされたり不眠症 になる先生もいらっしゃるようです。 そのことが歯科医師の大きな悩みで、子供に好かれたい、懐かれたいという欲求があり そのために笑顔で接したり優しい言葉をかけるなどの努力をしても、白衣の自分の姿 である限りはどんなことをしても子供は心を開いてくれませんし、仲良くなることは よほど警戒心の無い子供でないと無理でしょう。 子供の歯を治療することもありますから子供と触れ合う機会も多く、そのたびに目の前 で泣きじゃくる姿を見るのは心が重くなってしまいます。 子供に好かれたいけどそれは叶わないというのが歯科医師の抱える最も深刻な悩みで、 診療もままならぬほど抵抗するお子さんもいるので笑い事ではありません。 「ボクって子供に嫌われちゃうんだよー」で済まされればちょっと悲しいだけのお話 で終わるのですが、嫌われるを通り越して恐れられてしまうのです。 それでも虫歯の治療をしないわけにはいかないのでなんとかおとなしくさせて、 お口を大きくアーンしてもらいいろいろな器具をそこへ突っ込んだり掻き回したり して診療を続けなければなりません。 それがその子のためでもあるのですが理解してもらえるはずもなく、ただただ恐怖が 増して行くだけで潤んだ瞳で泣くのを堪えながら見つめてくるのです。 これは歯科医師でなくても耐え難い苦痛で、自分も泣きたくなってしまいます。 小さな患者さんが来るたびに繰り返されるこのテンプレートのような流れは確実に 歯医者さんの心を深い悲しみへと導き、「これ以上幼い子供達の泣き顔は見たくない」 「自分の顔が恐いとは思えないけど少しでも子供に好かれるようにピエロのような メイクをしてみようかな」「院内に落語を流して笑いがこみあげてくる環境づくりを してみようか」「どうせ恐がられるならいっそのこと思い切り恐い歯医者さんを 演じてやろう」と考え方もおかしくなってしまうほど精神的に病んでしまう先生も 全国各地にいらっしゃいます。 この悩みに対する良き解答がないというのも問題を根深いものにしており、いくら 自分の性格や接し方を柔らかく優しいものに変えたとしても、歯医者さんというだけで 恐がる児童は地球上にいくらでも存在すると考えられ、何人かは手懐けられたとしても 世の中の全ての子供に好かれるスーパー歯医者さんにはなれないのです。 恐がられるのは仕方が無いと割り切れれば心も楽になれますが、諦めきれずに全ての 子供に愛されたいと願うまだ経験の浅くて若い歯医者さんの大部分は、子供の怯えた 顔をみるたびにダメージを受け続けているのです。 歯科医師という立派な肩書きを手に入れたけどそのせいで子供が懐かない、これが 歯医者さんの持つ大きな悩みであることを理解してあげ、せめて大人のあなたは 優しく接してあげるようにしましょう。 肉体的にではなく精神的なダメージですので、それだけでも十分に救いになるはずです。